大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 平成7年(あ)1008号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人秋廣道郎の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

なお、原判決及びその是認する第一審判決の認定並びに記録によれば、被告人は、主婦であって、実父から相続した土地を夫のAに依頼して売却したものであるが、自己の所得税の確定申告について、申告内容の決定、税理士への委任等、手続一切を代行するようAに委託したところ、Aは、右土地の売却に係る譲渡収入の一部を秘匿して被告人の所得税をほ脱する意図で、情を知らない税理士に委託して、右譲渡収入の一部を除外した虚偽の内容の確定申告書を作成、提出させ、もって、不正の行為により所得税の一部を免れたことが明らかである。右のような本件の事実関係の下では、Aは所得税法二四四条一項にいう「代理人」に当たり、被告人は、事業主でなくても「代理人」であるAに対し選任、監督等において違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった過失がないことの証明がされない限り、同人の行った本件所得税ほ脱の違反行為について、同法二四四条一項、二三八条に基づく刑責を負うものと解されるから、被告人に右の刑責を認めた原判決の判断は、正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山口繁 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例